グランピング施設の差別化戦略【前編】
- 草太 八木
- 8月22日
- 読了時間: 10分
更新日:8月26日

グランピングという言葉が一般に広まり始めてから数年が経ちました。 かつては目新しかった「自然×快適」という体験型宿泊施設も、今では全国津々浦々に展開され、珍しさだけでは集客できない時代になっています。
つまり、「グランピング」という看板だけでは集客も運営も成り立たなくなってきているのです。 今回はグランピング施設経営者の皆様が直面しているであろう差別化の問題とその解決策について記事にします。
内容が長くなりそうなので、前回の記事と同じく、前後編に分けて投稿したいと思います。
なぜ今「差別化」が必要なのか?

市場は“成長”から“選別”のフェーズへ
コロナ禍を契機に、グランピング市場は急激に成長しました。 密を避けつつ自然を楽しめるという体験価値が注目され、多くの新規参入が相次ぎました。しかし2024年を境に、検索ボリュームの伸びは横ばいに。ブームの「熱」が落ち着いた現在、需要に対して施設数が増えすぎており、一部地域ではすでに供給過多の兆候が見られます。
これは“選ばれる施設”と“埋もれる施設”の差が、より顕著になるフェーズに突入したことを意味します。
「良さそう」だけでは選ばれない時代へ
これまでのグランピング集客は、「なんとなくおしゃれそう」「写真映えする」といった感覚的な訴求で成功していた面がありました。 しかし、施設が増えた今は、ユーザーが比較して選ぶ時代です。類似の設備・料金・ロケーションが並ぶ中、具体的な魅力や違いが伝わらなければ、候補から外されてしまいます。
口コミやSNSを見て判断するユーザーにとっては、明確な“推しポイント”が必要です。
価格競争ではなく、価値競争へ
供給が増えると、どうしても価格競争に陥りがちです。 安くすれば一時的には予約が入るかもしれませんが、利益率が下がり、サービスの質が落ち、長期的にはリピーターが減少する悪循環に。
だからこそ、今求められているのは**「選ばれる理由」=“価値の差別化”**です。
唯一無二の体験があるか?
ストーリーが伝わる設計になっているか?
顧客が「ここでなければダメ」と思える仕掛けがあるか?
こうした“価値の再設計”を行うことで、価格に依存せず、しっかりと収益を確保できる運営が可能になります。
差別化のカギは“視点”にある
差別化と聞くと、「豪華な設備」「派手な演出」などを想像しがちですが、実は顧客視点の再設計こそが最も重要です。
・顧客が求める過ごし方を理解する
・滞在中の感情の流れをデザインする
・SNSなどで自然と広がる仕組みを作る
こうした工夫が、他施設との“体験の質”に大きな差を生みます。
差別化とは「見た目」ではなく「体験の中身」にある

~選ばれるグランピング施設に共通する“記憶に残る設計”~
「見た目」は差別化の“入口”にすぎない
グランピング施設の多くは、差別化という言葉に対して「非日常感のある内装」「変わった形のドーム」「高級食材のBBQ」など、視覚的・物理的な違いを思い浮かべます。もちろんそれらは第一印象を作るうえで重要な要素です。 しかし、それだけでは**「SNSで見たことがある場所」止まり**になってしまい、再訪やクチコミには繋がりにくいのです。
たとえるなら、“目を引くジャケット”は必要ですが、“中身の音楽”が良くなければアルバムは売れません。
真の差別化とは「体験」の中にある
宿泊体験というのは、チェックインから滞在、チェックアウト、そしてその後の余韻までを含めた一連の流れです。その中で、「ここにしかない体験」や「想定を超える驚き」があることで、はじめて顧客の感情にフックがかかります。
1. ユーザーが“違い”を認識できること
差別化の第一歩は、“他と違う”ということを明確に気づかせる設計です。
ただしこれは、「ユニークなテント」や「映えるデザイン」といった物理的要素だけではなく、
・到着時のサプライズ(ウェルカムドリンクや景色の演出)
・スタッフの接客スタイル(温度感、個別対応)
・選択式の滞在プラン(焚き火体験・ワークショップ・夜の星空案内など)
といった、“感覚的な違い”にも及びます。
ユーザーが「こんな風に過ごせるとは思ってなかった」と感じる瞬間があるかどうかが鍵です。
2. その違いが“記憶と感情”に残ること
見た目の違いは一時的なものですが、記憶に残る体験は長く心に残ります。
たとえば――
・子どもが思いがけず薪割りを体験し、笑顔になった
・恋人と星を見ながら静かに話す時間があった
・スタッフとの会話で「また来ますね」と自然に口にしていた
こうした感情の動きがあって初めて、「また来たい場所」として記憶され、他人に勧めたくなるのです。
“感動の設計”といってもいいでしょう。
差別化は「演出」ではなく「設計」
大切なのは、こうした体験を偶発的に任せるのではなく、意図的に設計することです。
・到着から退館までのストーリーを描く
・顧客像(ペルソナ)ごとに“刺さる瞬間”を用意する
・不快感・迷い・待ち時間といった“マイナス要因”を潰す
つまり、差別化とは「施設の内装を変えること」ではなく、顧客の感情をどうデザインするかという発想にほかなりません。
“また来たい”を生むのは、特別ではなく“心地よさの連鎖”
特別な仕掛けがあっても、動線が悪く迷ったり、スタッフの態度が素っ気なかったりすれば、全体の印象は悪くなります。
逆に、演出が控えめでも「スムーズさ」「居心地」「安心感」「楽しさ」がバランスよく設計されていれば、自然と「また来たい」と思えるものです。
差別化とは、突飛なアイデアではなく、“心地よさの連続性”を作ることなのです。
差別化の軸①:ターゲットの明確化と特化

■ただ発信するだけでは効果が薄い
SNSキャンペーンやインフルエンサー招致などの単発施策は、「話題性」「バズり」による一時的な流入は見込めますが、持続的な効果を見込むなら工夫が必要です。 また、以下のような点に注意する必要があります。
▼ 注意点1:予約に繋がる導線が設計されていない
投稿を見て「行ってみたい」と思っても、すぐ予約できる導線が存在しない。
SNSのリンク先がTOPページだけで、プランや空き状況が探しにくい。
プロモーションで興味を持ったユーザーが離脱してしまう無駄な動線がある。
▼ 注意点2:顧客属性に合った発信になっていない
ターゲットが明確でないため、「誰に刺さるのか」が不明瞭。
家族向け施設なのにカップル向けの写真ばかり、などのミスマッチが発生。
フォロワーが増えても、実際の予約者層とずれているため意味をなさない。
▼注意点3:オフライン体験がSNS投稿に繋がらない
実際の滞在中に「映える体験」がなければ、自発的な投稿は生まれない。
写真を撮りたくなるスポットや、思わずシェアしたくなる演出・仕掛けが不足。
ハッシュタグや投稿特典など、投稿を後押しするインセンティブ設計がない。
■「一連の体験をつなぐ仕組み化」
単発で終わるのではなく、「認知 → 共感 → 予約 → 滞在 → 拡散 → 再訪」という導線全体を設計することが重要です。
▼ 1. SNS・広告:“認知”の後の動線設計
投稿や広告のリンク先は、必ずコンセプトに共感しやすく、予約に直結するページへ。
特定のキャンペーンページや、ターゲット別にLP(ランディングページ)を分けて運用。
▼ 2. 滞在:「SNS投稿したくなる現場」づくり
撮影スポットの演出(例:フォトジェニックな焚き火台、星空の下のソファエリアなど)
「#◯◯ステイ」など、オリジナルハッシュタグの提示。
投稿すれば次回割引・プレゼントなどの参加型インセンティブ。
▼ 3. チェックアウト後:再接触の仕掛け
LINEやメールでのサンクスメッセージ → クーポン配布。
過去の写真を使った「1年後のリマインドDM」など時差のある再アプローチ。
投稿者をピックアップする「フォトコンテスト」など、UGCの活用。
■ オフラインとの連携が“感情の深度”を高める
デジタルの発信はあくまで“きっかけ”。
実際の滞在が感動や余韻を残す体験であれば、それがSNS投稿につながり、新たな認知と信頼の拡散に繋がります。
さらに、オンライン上で完結しがちなユーザーとの関係を、現場体験を通じて深化させることで、価格ではなく“価値”で選ばれる施設となります。
差別化の軸②:導線と体験価値の設計

「見た目」だけの施設は、“比較”で終わる
グランピング施設の多くが、美しい自然、おしゃれなテント、豪華な食事といった「外観の魅力」を前面に出します。
しかし、ユーザーが最終的に選ぶのは“スムーズで心地よい体験全体”です。
どんなに素晴らしい設備があっても、予約ページで迷わせたり、到着後に不安を感じさせてしまえば、リピートにはつながりません。
差別化とは、目に見える部分だけでなく、予約〜滞在〜帰宅後までの全体設計の完成度にこそ表れます。
■ わかりやすいプラン表示で迷わせない
予約ページが煩雑だったり、プランごとの違いが曖昧だったりすると、ユーザーは不安になり離脱します。
「AプランとBプランの違いは?」「夕食付き?なし?」「ペットはOK?」など、不明点が一つでもあると、他の施設へ流れてしまうのが今の消費行動です。
☑ 明確な比較表
☑ 写真付きの説明
☑ よくある質問の簡潔な表示
これらがあるだけで、予約率は大きく変わります。
■ SNSや公式サイトに“物語”を設ける
ただの紹介ではなく、ユーザーがその場にいる姿を想像できるかどうかが重要です。
公式サイトやSNSでは、体験者の1日を追体験できるようなストーリーデザインが有効です。
例:
「チェックインは静かな森の中の小道から始まる」
「夕暮れ時には焚き火を囲んで地元ワインを一杯」
「朝は鳥のさえずりで目覚め、澄んだ空気の中でヨガ体験」
こうした情景が浮かぶ構成が、比較対象ではなく“行きたい場所”としての印象を強めます。
■ チェックイン直後に“来てよかった”と思わせる演出
・ウェルカムドリンクの提供(季節ごとに変化を持たせる)
・テントに入ると流れてくる静かな音楽とアロマ
・スタッフの一言「今日、星空きれいそうですよ」の演出力
こうした五感に訴える小さな驚きと気遣いが、強く印象に残ります。
■ 滞在中に“迷わない動線”をつくる
・施設マップが分かりやすい
・食事・アクティビティの時間が事前に明示されている
・トイレやシャワーの導線が直感的に理解できる
宿泊体験においてストレスの多くは「迷う・探す・確認する」ことです。
“迷わず行動できる仕組み”こそが、ラグジュアリーな体験の本質とも言えるでしょう。
■ 滞在後のフォローで「また来たい」を作る 宿泊が終わっても、施設としての体験設計はまだ終わりではありません。 チェックアウト後に残す“余韻と再訪の種”も重要です。
・SNSでの投稿を促すハッシュタグと撮影スポット
・チェックアウト後に届くお礼メール+写真の共有リンク
・次回限定のリピート特典や、季節イベントの先行案内
こうした帰宅後の接点が、「思い出」から「次回の計画」へと自然に繋がります。
魅力的な施設を作るだけでは、差別化は不十分です。
大切なのは、その魅力がユーザーにどう届き、どう記憶に残るかという体験価値の編集です。
予約導線、情報設計、滞在中の演出、退去後のフォロー。
これらを一つの“物語”としてつなげていく視点こそが、グランピング施設における真の差別化軸になります。
まとめ

差別化とは「見た目」ではなく、ユーザーが体験を通じて“違いを感じ取り、記憶に残す”ことです。 豪華なテントやインテリアは一瞬の印象を与えるかもしれませんが、再訪や推薦につながるのは「その場で何を感じたか」にかかっています。
とくに、誰に向けた施設なのかを明確にすることで、提供する体験の質が高まり、結果的に口コミやSNSでの拡散力も増します。また、予約から滞在、帰宅後に至るまでの流れを通じて「ストレスなく・心地よく・余韻が残る」ように設計されていることも重要です。
このように、“体験全体”を設計する視点こそが、今の時代に求められる差別化の本質です。
※ほかにも差別化の軸はありますが、それについては後編で詳しくご紹介します。
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